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 川崎の日本民家園に、僅か1坪の舟番屋が保存されています。

 多摩川の菅と調布を結ぶ「菅の渡し」渡船場で昭和の中頃まで船頭が客待ち等で使っていた小屋です。1坪の半分には畳が一枚、残り半分の土間中央に河原の石を並べた簡素な炉、3人までは座れる設え。寝転ぶ畳の壁の小さな開口部から外の様子を確認できます。

 土台は河石の上に置いただけなので、出水の際には外側の鉄輪に棒を通して、神輿のように担いで移動すると解説にあります。ニコラス・ペブスナーの名著「ヨーロッパ建築序説」の序論に「人が中にはいれる大きさの閉じた空間は、ほとんど建物といってよいが、建築という語は、美的な魅力を与えるべく設計された建物のみをさしていう。」という一節がありますが、この無名の工匠たちの一坪屋に、建築と呼んで余りある魅力と洗練を感じました。