20世紀の工業デザインに大きな影響を与え、ほぼ同時代に活躍したジャン・プルーヴェとフィン・ユール。2人のデザイナーの2つの展覧会を梯子しました。
プルーヴェは金工職人としてキャリアをスタートさせた後、エンジニア、起業家、建築家、教育者、社会活動家、政治家など様々な職域に渡る実践を通じて、時代を超える数々のプロダクトを産み出しました。代表作スタンダードチェアは時代や社会状況に合わせて、形や素材が柔軟に変化していきます。
プルーヴェのデザインを見て人々が持つ印象は、必ずしも美しいというものではないかもしれません。それは長い歴史の中で人が積み重ねてきた美の常識とはややずれていて、プルーヴェのデザインに対する考え方が一般的なものと違う視点や次元に立ったものだからです。同時代のバウハウスのデザイナーはいわゆるスタイルを作るデザイナーであるのに対し、プルーヴェはもっと本質的でコンセプチュアルなデザイナーです。スタイルを作るデザイナーに近づくには、その形やディテールを模倣すれば、ある程度まで実現可能ではありますが、プルーヴェに関しては、事物の原理や社会状況、そして問題へのアプローチがコンセプトになっているので、それを理解するために多くの時間と努力を必要とします。
また、バウハウスは機能主義モダニズムを生みましたが、具体的な生産技術の実現までには至りませんでした。その時代に、プルーヴェは建築分野にまで生産技術の確立を行った、唯一のデザイナーだったと言っても過言ではありません。トーネットの曲木をスチールパイプに置換を試行をする時流の中、素材の利点を最大限に活かそうとする思考と自らの手で素材を折り曲げ、打ち出し、溶接するといった実践を繰り返す、そのものづくりの姿勢に襟を正される思いです。
フィン・ユールはアルネ・ヤコブセンと同じく、家具デザインの教育を受けていないデザイナーです。
手触りの良い有機的な形態は、建築や室内空間の直線的な構成との意識的な対比でつくられています。ヘンリー・ムーア、ジャン・アルプ、イーレク・トメスンらの彫刻から着想を得ていたようです。家具の構成要素を「支えるもの」と「支えられるもの」に丁寧に分離する手法が秀抜です。
フィン・ユールの椅子はフォルムについて語られることが多いのですが、その色彩感覚についても注目に値します。彼の水彩によるドローイングは、家具を含めた空間全体が彩豊かに表現され、色彩が彼にとっていかに重要だったのかを示しています。